コンクリートダム不要論の中には、水源地の森林を“緑のダム”として保全する主張がこれまで見受けられました。一方で山の斜面に植物があると、葉の蒸散(蒸発)によって根っこから水が吸い上げられて斜面はもっと乾燥してしまうのではないかという素朴な疑問を私もかつて持ったこともあります。

この本のタイトルにある「水を育む森」という概念は、一般的には当たり前のこととして受け入れられていますが、実際には複雑で必ずしも真ならずという学術的な論点について触れています。明治維新に西洋の学問が広く普及する過程において、「水源滋養機能論」も輸入されたものなのか、それとも江戸時代から日本にあった考え方だったのか、という点について国内外の古い文献を紐解いて検証してます。

マスコミに好まれるような分かりやすい解説だけが全てではないと思う今日この頃、時には素人目線で「当たり前」を疑ってみることも大切なのだと痛感しました。これからも真実を追求して「全てを背負う科学」へと発展させる必要がありますね。