5月22日は国連が定める「国際生物多様性の日」です。
SNSでは国連を中心に事前に盛り上がりを見せていましたが、今朝の国内の新聞では企業等の取り組みもあまり報じていなかったように感じます。
(生物多様性も当たり前の世の中になったということを期待しましょう。)
森林における感染症拡大
このブログでも何度かお知らせしておりますが、関東各地では今年の夏にナラ枯れのピークが訪れる可能性があります。
正確に申し上げると、来月(6月)になると枯れ木の幹の中で冬を過ごしたカシノナガキクイムシという昆虫の新成虫が大量に飛び出して更なる繁殖のために別な高木に移動(引っ越し)して昆虫と共生している菌が木を枯らしてしまいます。
日本海側と西日本ではすでにピークを過ぎておりますが、関東は人家の近くに高木があるようなケースも多くあり、一昨年からナラ枯れの発生を受けて多くの木々が伐採されています。
広い範囲で立ち枯れが発生すると林の中の明るさが変わり、隣地のモウソウチクやアズマネザサが根を伸ばしきて占拠するようなことも想定されます。
今回は国際生物多様性の日ということで三浦半島のマテバシイ林で発生しているナラ枯れと共生している生き物についてご紹介します(新発見?)。
爪楊枝の大量生産!?
ナラ枯れした樹木の幹に調査や駆除のために爪楊枝を挿すことがありますが、マテバシイの幹に直径2ミリほどの爪楊枝のようなヒモ状の物体が大量に付着していました。
カシノナガキクイムシが穴から掻き出したフラス(糞や木粉)が固まったのものかと思ってよく見てみると、風でゆらゆらするもののほかに、明らかに動くものが見られます。
静止しているものはカシノナガキクイムシの穴(穿入孔)にヤドカリのようにピッタリと入っています。
インターネットで調べてみるとヒモミノガの一種でミノガの幼虫でした。一般的によく知られているミノムシ(蓑虫)の仲間です。
詳しい文献で種の同定を試みましたが、研究として十分な蓄積がされておらず学名も未だつけられておりません。
最長76mm&最大直径2.0mmのミノだと、ヒモミノガでもキノコヒモミノガのどちらでもないのような気もしますが、今後の研究に期待をしたいところです。
下記の文献によると蛾の仲間では珍しく幼虫のうちは自分で木の幹に数センチの穴を掘って穴の中から長い筒のようなミノを紡いでいるそうです。
刺さった爪楊枝の状態の時は幼虫は幹の中におり、周囲の苔などの食べる時は刺さったまま固定された方とは反対側の先から頭を出してミノの回転半径の範囲にある餌を探します。
移動するヒモの状態は、周囲の餌を食べ尽くしてミノを切り離して別な餌場を探している状態なのですが、羽化をする時には蛹になる前に紐を1センチほど残して切り落としてから木の中で蛹になり、最後に残ったミノを押し開きながら羽化するのだとか。
先に触れた通り、穿孔性昆虫の一種なので通常であれば自分で穴を掘ります。しかし、今回のヒモミノガはちゃっかりとカシノナガキクイムシが掘った穴に間借りしています(別な意味でのヒモですね)。
カシノナガキクイムシと住居を共にして、カシノナガキクイムシが掻き出したフラスを蓑に使用したりと共生関係にある可能性もあります。
さらにはあくまでも推測ですが、カシノナガキクイムシにとっても、ヒモミノガがフラスの排出を手伝ったり、外敵の侵入(用心棒)や乾燥の防止(ドアマン)に役立っていたりするのかもしれません。
羽化して蛾になって空中を飛べるようになるまでの期間限定ですが、蓑もここまで長いと幹の内部もあるので居住空間としては広くて快適でしょうね。
一方でミノガの中でも特に蓑が大きく、童謡に出てくるような冬の風に揺られている情緒感たっぷりのオオミノガも今では各県のレッドデータブックにリストアップされています(ハエの寄生が原因)。
今回のマテバシイ林の周辺でも一時的にミノガが大量発生するかもしれませんが、通常であれば野鳥の餌となってバランスが保たれるはずです。
ただし、サバクトビバッタがアフリカで大量繁殖して新型コロナウイルス感染症が猛威を奮っているインドを越えて中国に到達する可能性も指摘されているので必ずしも心配不要とは言えないのかもしれません。
再びマダニとの遭遇
過去にもヒヤリとした思いがありますが、今回もウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」を引き起こすこともあるマダニが首の付近におりました。
黒い色の生地だったらおそらく気付かなかったでしょう。
たとえ夏であっても山や野原では素肌の露出は避けて、明るい服の長袖、長ズボンを着用しようという注意喚起は大切ですね。
(黒よりも白い色の方がスズメバチも攻撃しにくいということもあるのでオススメです。)
さらには「つつがむし病」という別な感染症の原因となる、マダニよりもさらに小さなツツガムシにも念のために注意したいところです。
ナラ枯れを受けた枯れ木はさまざまな菌類の発生によって分解されていきますが、カエンタケという朱橙色のキノコが出てくることが知られています。
カエンタケは火焰茸の名前の通り色だけでなく形状も炎のようなに奇怪なキノコなので触りたくなりますが、強い毒性があるので見かけても触らないようにしましょう。
新型コロナウイルス感染症の拡大で変異するウイルスの狡猾さや三密によって発生しやすい感染から身を守るための自然の重要性が再認識されましたが、生物の多様性の保全を含めた社会の回復(グリーンリカバリー)が提唱されています。
人間が及ぼす地球への影響があまりにも大きくなった時代(アントロポセン、人新世)に事業者や生活者がどのような行動を取るべきかが試されています。
風に揺られながらも柔軟に強かに生きられるように進化してきたヒモミノガに生物多様性の一端を見せられたような気がします。
<参考文献>
杉本美華(2010)木に潜るガ、ヒモミノガ(ミノガ科).昆虫と自然,45(14):13-16.