新型コロナウイルス感染症の予防のためのワクチン接種が各国で進められていますが、集団免疫に近い効果が得られるかどうかを判断するまでにはしばらく時間がかかりそうです。

ブラジルやインドなどの爆発的な増加傾向を見ると背筋が冷たくなるのを感じるのと、狡猾に変異をするウイルスと戦う人間の無力さを痛感してしまいます。

大阪をはじめとして国内でも「第4波」の発生が色濃く感じつつあり、もしも「第3波」を超える規模の感染が発生すると逼迫する医療機関への負担が心配になります。

どうしても生き物としての本能が目覚めてしまう「春」ですが、歓迎会や宴会をしたい気持ちは別な手法で叶えたり別な対象に向けて日々の感染予防に努めましょう。

今回のタイトルは、感染症の急拡大(パンデミック)を抑制するとしましたが、新型コロナウイルス対策ではなく今回も昨年から引き続いて「ナラ枯れ」についてご報告します。

当方で関与している各地のプロジェクトでも「ナラ枯れ」について質問や相談をお受けしておりますが、今回は具体的な内容というよりも将来を見据えた提案(警笛?)となります。

要旨

  1. 関東に到達したナラ枯れは昨年に爆発的に急増しており、今年はさらに拡大することが予想される。
  2. 地球温暖化による異常気象もあり、首都圏では数年のうちに人命や財産への悪影響も想定される。
  3. 感染拡大防止に向けて6月から始まる成虫の大移動までに打てる手を打ちたい。

感染の拡大傾向

九州や四国、日本海側では1979年以前より確認されていますが、関東に到達して身近な森林や公園などで目立つようになったのは昨年(一昨年)のことです。

ナラ枯れの主因と傾向、対策については過去の投稿で紹介しているのでご覧ください。

新型コロナウイルス感染症が徐々に収束して完全に終息するまでいったい数年かかるかは分かりませんが、ナラ枯れについても5年程度は関東一円とその周辺で拡がり続ける可能性も高く、一昨年で対策を怠ったために昨年の爆発的な急増を許してしまいました(猛省)。

集団行動をするうちの一匹の成虫が多くの卵を産んで幼虫が孵化して成虫になり、その成虫が翌年に他の木に移って繁殖をするという指数関数的な増加は他の感染症に共通しています。

今年は更に範囲が拡大することが予想されており、昨年に発生した場所から拡がり、少し離れた場所でも突然に発生して高木が枯死するようなケースが予想されます。

無為自然?

自然保護活動を行う仲間のうちでも議論と検討を重ねながら管理作業を行うのが一般的ですが、ナラ枯れについても色々な誤解や思い込みがあり、説明に困ることが少なくありません。

自然なので自然に任せるのが一番という方(保守派)もいらっしゃれば、さぁ伐採しようと軽く腰を上げる方(実践派)まで様々ですが、理論派の方はギャップダイナミクス(高木の枯れた後の萌芽更新による遷移に関する森林生態学の考え方)で説明します。

当方は自然に唯一の正解はないと考えており、地域ごとに目的も異なるために手法も様々なので中立的に判断を下して対策を講じるお手伝いをするのが職務なのですが、ナラ枯れは先行していたマツ枯れや通常の森林管理と大きく異なる点があり、今回はブログでも紹介することとしました。

確かに人里離れた山の高木が1本だけ枯れても「直接的な被害」は発生しないので手間と費用を掛けて処置するまでもなく放置するのが一般的ですが、数量がまとまって発生した場合や人家などに近いために被害が想定されるような場合には複雑系理論を持ち出すまでもなく対策が必要となります。

線状降水帯によって引き起こされた鬼怒川決壊や九州豪雨では多くの尊い命が失われてしまいましたが、地球温暖化に起因するとされる異常気象によって自然災害は激甚化しており、ナラ枯れに豪雨などの自然災害が重なると予期せぬ事態に陥る可能性があります。

“風が吹いて桶屋が儲かる”ではないですが、今後想定される社会への影響を下図に簡単にまとめてみました。

ナラ枯れと想定される被害
ナラ枯れの急拡大によって生じる影響

今回の被害想定は住宅地近傍だけでなく、里山など山間部における山林の土砂災害、平地での水害防備林(水防林)欠損による水害防備の機能低下、野生生物による農作物への被害なども挙げています。

杞憂で終わることを強く願っていますが、関東においてはナラ枯れの急拡大は人命や財産に大いなる悪影響を与えかねません。

次の未来に向けた対策

冬の間に大きくなったカシノナガキクイムシ(カシナガ)の幼虫は今は枯れた高木の幹の中で暮らしていますが、6月になると成虫となって一斉に飛び出して別な高木に移ります(マスアタック、例えるならば集団移転による大移動)。

感染拡大を完全に食い止めることは難しいかも(既に手遅れと諦めることなかれ!)しれませんが、遅くとも5月中には人命や資産に影響を及ぼす可能性を考慮して最低限のリスクアセスメントをすることをお勧めしています。

当社でも費用対効果と環境への負荷を考慮して、駆除と防除(予防)を行うための実験を行なっており、先駆的な地域では近くで感染が確認されていなくても苗木の植樹などの未来に向けた事前対策を既に始めています。

常緑樹だったはずの裏山が一斉に落葉して不思議に思っている方や、枯れているみたいだけれども「ナラ」ではないから心配していないという方も多くいらっしゃいます。

もしご不安やご不明な点があれば、お知り合いの樹木医や当方にお問い合わせください。

南米エクアドルの民話とされている人気の絵本『ハチドリのひとしずく』では、森林火災を食い止めるためにハチドリが小さな体で一滴ずつ水を運んでいますが、小さな一つ一つの取り組みが地球温暖化の抑制を含む大きな潮流になります。

Golden hummingbird
民話にも登場するハチドリ(日本国内には生息してない種です)

人間を含めた生き物が地球で持続的に暮らし続けるため、人間と環境の健康の両立(ONE HEALTH)に全力で取り組みます。

もりのフックもオンラインストアで販売中です。

引き続き、よろしくお願いします。